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2017年にアブダビに開館した「LOUVRE ABU DHABI(ルーブル・アブダビ)」に行ってきました。
期間限定ですが、「ルーブル」と名前が付いている美術館は、本家フランス以外とここにしかありません。今回は、エメラルドグリーンの海に囲まれた「ルーブル・アブダビ」の見どころをご紹介いたします。
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文化のプラットフォーム
UAEアラブ首長国連邦を構成する首長国のひとつ「アブダビ」は、豊富な石油資源によって支えられている経済大国です。隣りのドバイが「世界一」にこだわっている一方、アブダビは、文化的な一面を伸ばそうとしているそうです。
その一つが、白亜の美術館「ルーブル・アブダビ」です。
ルーブル・アブダビ
「ルーブル・アブダビ」は、空港から車で30分ほどのサディヤット島(アラビア語で「幸せの島」の意)にあります。
エメラルドグリーンの海に囲まれた、白亜の美術館。その建物は、フランス人建築家ジャン・ヌーヴェルによるものです。
建物は、海に突き出したかたちになっています。
特徴的なのは、そのドーム部分。
イスラム教では偶像崇拝を固く禁じているため、モスクの装飾には幾何学模様かアラブ文字をデザイン化したものが使われています。
ルーブル・アブダビにも、ステンレススチールとアルミニウムの三角形、四角形、八角形などの幾何模様で造られたドームがあります。ステンレススチールの構造とアルミニウムの層で構成されたドームは、7,500トンの重さがあるそうです。その網目からは木洩れ日のような光が差し込み、とても美しい景色を作っていました。
海に張り出した構造となっているため、風が吹き抜ける開放的な空間です(とはいっても外は暑いですが)。蛍光灯が仕込まれていて、夜には星空のように見えるそうです。
建設中の美術館
すぐそばには、ザイード国立博物館の建設真っ最中でした。
この他、2025年には、フランク・ゲーリー設計のグッゲンハイム・アブダビがオープンする予定です。この3カ所に一気に行けるとなると、世界中の注目を集めるかもしれませんね。ちなみに、日本からアブダビへは、直行便も就航していますので、簡単に行くことができます。
30年の期間限定”ルーブル・アブダビ”
エントランスは、こちらです。
パリのルーブル美樹幹と違って、行列はまったくありません。
ところで、ルーヴル・アブダビには、30年間「ルーヴル」という名称を使いながら、恒久的なひとつの美術館を築き上げるという壮大な計画があります。その対価としての費用は、4億ユーロ、2018年当時のレートで、約530億円だそうです。
(私が行った当時)ルーヴル・アブダビには、政府間の合意により、フランス美術館局の株主機関であるフランスの国立美術館(ルーヴル美術館、オルセー美術館、ポンピドゥー・センター、ヴェルサイユ宮殿、ギメ美術館、ケ・ブランラリー美術館、フランス国立図書館、ロダン美術館)の様々なコレクションから作品が貸し出されていると書かれていました。
フランスとアブダビの間での文化の美術という財産を分かち合うこと、教育的な使命、国立という大きさ、文化の波及。そのようなユニバーサル美術館の基盤がここにはあるそうです。
展示方法
常設展は、4つのWING から成り、12の章(ギャラリー)に分かれています。
他の美術館との違いは、その展示方法。
それぞれが人類の歩みにおける部屋として構成されており、その歴史を通じて人類が共有する特徴を浮き彫りにしています。彫刻、道具、壺など、異なる国や地域からの類似作品が、時代順にテーマごとに展示されています。つまり、見学者が、12,000年に及ぶ人類の文化史の流れに沿って見られる構成になっていました。
アプリの解説
「App Store」か「GooglePlay」で「Multimedia Guide | Louvre Abu Dhabi」をダウンロードすると、アプリ内の「Museum Galleries」で解説(英語音声)を聞くことができました。
作品の写真もあるので、行く前や帰国後も楽しめます。
※ダウンロードはご自身の責任でお願いいたします。
荷物など
入場料を支払って展示室に進む前に、クロークルームなどがあります。
私は小さなリュックを背負っていましたが、そのまま入ることができました。
ここにあるパンプレットは、是非もらっておきましょう。
さて、いよいよ展示室へ!
The Great Vestibule
The Great Vestibule (直訳:大玄関ホール)と名のついた最初の部屋の床は、海図からインスピレーションを得たそうです。ギャラリーの床には、UAEアラブ首長国連邦の海岸線を表す曲がりくねったラインが描かれています。港湾都市を示す代わりに、ルーヴル・アブダビに展示されている作品の出身地を示す名前がさまざまな言語で書かれています。
ルーブル アブダビは、世界的な視野を持つ美術館であり、時代や文化を超えた作品を集めています。そのため、先史時代から現代までの 12 章にわたり年代順に旅することができます。この先の展示物は、地理的な制限を超えて、芸術表現形式の類似点と特殊性に注目しています。
最初の部屋にあった、ダンスをする人の像。
国を超え、時代を超えて、ダンスというテーマで集められていました。
旅の第一歩となるこの場所は、これから始まる物語を要約して紹介しています。
同じテーマで語られる物語。
この他にも、紀元前8世紀~紀元前4世紀のエジプトの「息子のホルスに乳を与えるエジプトの女神イシス」、19世紀~20世紀コンゴ共和国の「母子像フェンバ」が並立して展示されていました。
Wing1
ギャラリー1のテーマは、First Human settlement (最初の人間住居)。
人類が誕生して、東アフリカから世界中に広がるまでには何百万年もかかりましたが、紀元前 10,000 年頃までに、近東、中国、中央アメリカで、動物や植物を家畜化した最初の村落共同体(コミュニティ)が生まれました。種族や地域的な違いにもかかわらず、これらの初期のコミュニティは、信仰や儀式によって祖先を中心に団結したいという共通の願望を共有していたそうです。
そして、農業と家畜からの利益によって生み出された富は、国家権力の形態を生み出しました。Wing1では、そういった流れで旅していきます。
First Human Settlement
こちらでひときわ目をひく展示物 ≪双頭の記念碑≫は、ヨルダンのものです。
用途は不明なようですが、紀元前6,500という遥か昔に作られたことにビックリ!そして、それが残っていることに2度ビックリ!!
説明書によると、石膏でできていて、目の部分は「bitumen(瀝青:れきせい)」という原油の変質物アスファルトだそうです。
こちらの部屋には、紀元前10,000年頃の集落から始まり、ヨルダン、中央アジア、中米などからの展示品が並べられていました。
そばにあるモニターは、年代を追いながら人々が住む地域が広がっていった様子を見ることができます。
日本からの展示物もありました。縄文土器ですね。3500 BCE-2500 BCE
膨らみのある袖をもつボリュームのある衣服を着た、この女性の小像は、中央アジアの Bactria (バクトリア) から出土しました。この小像は、紀元前 3,000年紀後半から2,000年紀初頭にかけて、興 (おこ) ったオクサス文明に属します。
※ Bactria:中央アジアのウズベキスタン、トルクメニスタン、アフガニスタンの一部にまたがる領土の古名。
像のそばの説明に「proctive deity (?):守り神 」と書かれており、あの世での守り神として、性別に関係なくお墓に安置されたそうです。
ルーブル・アブダビが持つ「教育的使命」の意味が理解できました。
点字(言語は確認できませんでした)や、実際に触れられるミニチュアの模型があり、ただ鑑賞するだけでなく、いろいろ学習しながら楽しめるようになっています。
※もちろん本物の展示物は触れることができません。
通常の美術館は、国ごとによる展示方法なので、世界的な繋がりは良くわかりません。しかし、ここでは時代やテーマによって分かれているので、同年代に各地域でどんなことが起こっていたのかを見ることができました。
ギャラリー2
ギャラリー2のテーマは、The First Great Powers (最初の大国)。
紀元前 3000 年頃、チグリス川、ユーフラテス川、ナイル川、インダス川、そして黄河の肥沃な土地に王国が出現し始めました。これらの大国の出現は、青銅の武器や斧、剣、鎧の普及を伴い、権力者の威信と華麗さの象徴となりました。
人々は馬にも乗り始め、長距離交流が促進され、王国の規模が増大し、発展していきました。人口の増加と強力な階層の出現により文明が生まれ、人々の交流や文字などの革新が促進されていきました。
こちらでは、太古の文明国家があったチグリス・ユーフラテス(今のイラク+周辺)、ナイル(エジプト)、インダス(今のインドと周辺国)や黄河(中国)からの出土品が並んでいました。
紀元前 2033 年頃から 1710 年頃、エジプトの高官は、死後の世界でも日常の活動を行えるように、墓に木製の模型を置き始めました。ナイル川で使用されたこのボートの複製は、通常はペアであり、1 つは地中海からの風に吹かれて南に航海するための帆を備え、もう 1 つはナイル川の流れにより北へ漕いでいくと書かれていました。この漆喰のボートには、14 人の漕ぎ手、操舵手、深海を探るための先導者を乗せています。
崇敬 (すうけい)の念を示す個人 "Huy" の名を持つ Pyramidion (ピラミディオン) と書かれていました。
Pyramidionは「小ピラミッド」とも言われる、ピラミッドやオベリスクの先端に乗せられている四角すいの石を指します。
紀元前950年頃の Henuttawy (ヘヌタウィ) 王女の棺やミイラも展示もされています。
埋葬マスクは、神々の不滅の肉体を模倣するために金メッキの木で作られています。繊細な顔立ちと、エレガントに下線が引かれた大きな目は、王室の側近だけに与えられた扱いであることを証明しています。ミイラを入れてある装飾箱に描かれているのはエジプトの神々です。
Lagash (ラガシュ) という国の王子「Gudea (グデア)」の像。
紀元前2,120頃のイラクの出土で、黒石で作られています。
ラガシュは古代メソポタミアの都市国家です。王子グデアは、王となったあと周辺諸国と通商協定を結んで交易を拡大し、シュメール文化を開花させた人物だそうです。
グデアの像の後ろにあった「船に乗った埋葬人形」。
紀元前1,850年頃のもので、釉薬を用いた陶器だそうです。精巧さだけでなく、状態の良さにも目を奪われました。
エジプト新王国第19王朝のファラオ(王)ラムセス2世(紀元前1279年~紀元前1213年)の像です。
エジプト各地に神と自身の業績をたたえる数多くの巨大建造物を築いた王で、名前をご存じの方も多いのではないでしょうか。
ギャラリー3
紀元前 1000 年頃から、アッシリア帝国、その後のペルシア帝国が中東を支配し、ギリシャの都市が地中海盆地の周囲に確立される一方、ノック文明やオルメカ文明は、それぞれ西アフリカとメソアメリカに広がりました。
翼のあるドラゴン、中国北部で発見されたものですが、今にも飛び立ちそうな勢いがありました。
≪ペルシャの射手≫」は、イランの Susa (スーサ)で発見されたタイルの像です。
一枚一枚が異なる色や絵で構成されており、現在まで色が鮮明に残っているのにビックリしました。
Wing2
Wing2に入りました。
約2,000年前に始まった universal religions (普遍宗教) の普及は、わずか数世紀でヨーロッパ、アジア、アフリカのほとんどの文明に到達しました。ここでは、仏教、キリスト教、イスラム教の区別なく紹介しています。宗教はコミュニティを結びつける要素となり、大陸を越えた知的活動や芸術活動に影響を与えるようになりました。
≪Dancing Shiva≫
ヒンドゥー教の神様 Shiva (シヴァ神) は、ここでは、人間の姿でありながら 4 本の腕を持つ幻想的な姿となっています。シヴァ神は、宇宙の周期的な破壊の代理人です。宇宙サイクルの終わりに世界を破壊し、無知を打ち砕き、宇宙を解放に導きます。ここでは、踊りの王(ナタラージャ)で表現されています。
歴史の授業で 「破壊の神」と習った気がします。しかし、彼の踊り(宇宙のリズム)は世界を滅ぼし、さらに再生へと導いていったのだそうです。なので、破壊だけではないようですね。
シヴァのことを良く思わない仙人達がシヴァをやっつけようとして悪魔を放ったそうですが、この像では、その悪魔を踏みつけて踊っている様子だそうです。
シヴァ神の足元にいるのが、踏みつけられているのは悪魔なんですね。
ギャラリー5
ギャラリー5は、アジアの貿易ルートがテーマです。
普遍宗教の拡大は、アフリカ、アジア、ヨーロッパ間の広大な貿易ネットワークの確立と並行して行われました。
中国は7世紀にはイノベーションの主要拠点として台頭し、磁器、火薬、紙、印刷などの世界を変える発明を生み出しました。これらの技術はイスラム世界に伝えられていきました。イスラム世界は、アジア、ヨーロッパ、アフリカを結ぶ絹貿易を支える隆盛な陸路と海路の中心にありましたので、8世紀から10世紀にかけて、バグダッドは芸術と科学の黄金時代を迎えます。
商人が通ったキャラバンのルートは、巡礼者がたどる道とも交差しており、象牙、絹、陶器、お香、宝飾品などの珍しい素材や高級品の流通と同時に、新しい考え方も広がっていきました。を促進しました。
観世音菩薩坐像 (観音さま) は、 中国の山西省で発見されたものです。高さ 175 cm、塗装および金メッキの木製で、ルーブル・アブダビ所蔵です。
単に像が並べられているのではなく、インドと中国の像の違いに関する説明がありました。
2つの像の違い
- ヘアスタイル:中国の方がつぶつぶが小さく2段頭
- 目:インドは太くて、中国は細い
- 唇:インドは肉厚、中国は薄い
- 手のサイズ:インドはやや大きく、中国は小さめ
- 素材:インドは赤砂岩、中国は白い大理石
今まであまり意識せずに見ていたので、目からうろこの展示方法でした。
ギャラリー6
中世の地中海盆地は、アジアやアフリカ各地からの商業および文化ルートの中心としての機能がありました。
一方、ヨーロッパの他の地域では、キリスト教王国間の競争と貿易の繁栄が経済と科学の発展に貢献しました。15 世紀末、ポルトガルの航海士たちがアフリカの海岸線を探検し、インド洋への新たな交易路を開拓していったのです。
イタリア北部、ボニフィリウスの名前が刻まれた、大理石でできた洗面器です。
ジャック= ルイ ダヴィット作 ≪アルプス越えをするナポレオン≫。
2019年に見たこちらの作品も、パリに戻ったのでしょか? 2023年に行ったときには、見つけることができませんでした。
反対に、以前にはなかった仕掛けがありました。
展示物の側には、ルーブル・アブダビを見学している人々の写真が飾られています。面白いですね。
日本と世界地図
今まで見たことがない、1690年頃に描かれた日本地図(屏風)が展示されていました。
世界地図の屏風とペアになっています。
藍色地に鮮やかな色彩で描かれた屏風は、長さ2.5mを超える大作です。これらは、ポルトガルとスペインのアジアへの進出とイエズス会の宣教遠征による流れが日本にまで及んでいたことを示しているそうです。
画面には星座早見盤が表示され、行き来する船が描かれていました。
Wing3
15 世紀末、クリストファー・コロンブスなどの航海者たちは、未知の文化に積極的に接触し、地球規模の交流を生み出しました。海路に使用される機器も発達し、宇宙の意味についての疑問が生まれたのもこの頃です。冒険のようすは旅行記として出版され、遠く離れた土地への旅が詳しく語られるようになりました。
Abel Grimmer (アベル・グリマエル)の ≪バベルの塔≫
Wing4
Wing4のギャラリー10には、一番見たかった絵画がありました。
ヨーロッパに産業革命が生まれ、ヨーロッパの植民地企業に動力を与えました。植民地主義、写真、新しい交通手段の開発は、ヨーロッパの芸術家にインスピレーションの源を提供し、技術革新と芸術的創造性、展覧会で称賛されるようになりました。
Questioning Modernities
10番目のギャラリーのテーマは、"Questioning Modernities" .「近代を問う」と名付けられており、良く知られている絵画も展示されていました。
日本の風景もありました。
Young Emir Studying
≪Young Emir Studying (勉強中の若い首長)≫個人的に、ルーブル・アブダビで一番好きな作品です。
”emir”とは、イスラム教国の首長を指すそうですが、「王族」と訳されているものもありました。前回は展示室が閉鎖されていたので見ることができなかったのですが、2023年に行ったとき、実際に見ることができました。
作者は、Osman Hamdi Bey (オスマン・ハムデイ・ベイ / 1842年~1910年)。オスマン帝国の王族であり、かつ先駆的な画家・考古学者としても知られた人で、 イスタンブール考古学博物館やイスタンブール美術アカデミー の創設者でもあるそうです。
カフェ
ルーブル・アブダビには、レストランや屋外カフェもあります。さすがに屋外は暑すぎて誰もいませんでしたが。
屋内のギフトショップの入り口付近にあった移動カフェ。こちらでアイスクリームも売っていると、他の方のブログで拝見したのですが、スタッフがおらず・・・。残念でした。
※ 2023年に行ったときは、別のアイスクリーム屋さんに変わっており、食べたかったデイツのアイスクリームはありませんでした。
開館時間・入場料
Louvre Abu Dhabi is open from 10am to midnight
Opening times
Galleries and exhibitions close at 6.30pm on weekdays and 8.30pm from Friday to Sunday.
Dome, cafés and restaurants remain open until midnight
Museum is closed on Monday
ルーブル・アブダビの営業時間は、10時から深夜0時までのようですが、ギャラリーとエキシビションは、18時、もしくは20時30分に閉館するようです。
ギャラリー
・土-水:10:00~18:30
・金・土・日:10:00~20:30
・休館日:月曜日
・入場料:63AED(大人)18歳以下は無料
- 上記は2023年8月時点。最新情報は、ルーブル・アブダビの公式サイトでご確認ください。
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さいごに
今まで訪れた世界各国の美術館のなかで、印象に残る1つが、こちらのルーブル・アブダビです。展示作品はあまり多くありませんが、じっくり見るにはちょうどいいと感じました。ゆっくり回って、鑑賞時間は2時間ほどでした。
絵画より彫刻や出土品などの方が多いので、知らずに行くと、ちょっと物足りないかもしれません。
しかし、「この時代には、他の国でこのような作品が作られていたんだ!こんな時代だったんだ!」と世界の流れを理解しながら鑑賞できるので、作品鑑賞だけでない楽しみがありました。このように展示することで、多文化に対しての「尊敬や好奇心」を促しているそうです。
最後までご覧いただきありがとうございます。